赤米や黒米が使われた色艶やかな五穀米、八穀米が人気ですが、秋田では「朝柴」と呼ばれる赤米が収穫されます。
こうした色素米は2000年以上前に中国から伝わり、生命力が強く薬効成分もあることから神様へのお供え物やお祝いごとに古くから使われていました。この赤米の色素は、赤ワインと同じポリフェノールの一種タンニンで、抗酸化作用の高い栄養素です。黒米の色素も同じポリフェノールですがブルーベリーと同じアントシアニン系で、滋養強壮に優れ薬膳料理にも使われます。
植物栄養で注目されるポリフェノールには「自然の日傘」とも呼ばれ、植物たちが紫外線から身を守るファイトケミカルで日傘のような役割をしているのです。トマトのリコピン、緑茶のカテキン、黒豆のアントシアニンも同じポリフェノールの仲間ですが雑穀の赤米や黒米にも多く含まれるポリフェノールが元気な体を作ってくれるのです。
「麦」の時代
グラノーラ人気でオーツ麦が注目されていますが、日本でも伝統の知恵が生んだ「押し麦」やイネ科の「はと麦」が根強い人気の雑穀です。押し麦は、大麦を精麦して2つに割ったり、蒸してやわらかくしてからローラーで平たく潰して調理しやすく工夫し、食物繊維と米に足りない必須アミノ酸が豊富でヨーロッパでは主食として食べられてきたように洋風料理には欠かせない食材なのです。
はと麦は、ジュスダマ属の一種で薬効があり古くから薬膳料理の食材として使われました。むくみの緩和や利尿作用、美肌効果に優れ肌あれやしみなどの肌のトラブルを和らげる作用があり、女性に人気の雑穀です。
国内の収穫量も609トンと多く、秋田県や栃木県、広島県で作られています。「健康」が「健効」と呼ばれ、一つひとつの食材の効果が注目される時代、伝統の雑穀たちに注目されるようになり、嬉しくなっています。
モテキ雑穀「キヌア」
国連が2013年を国際キヌア年と定め、雑穀キヌアはモテモテです。栄養価が高く、様々な気候に適応するため食料危機の解決に役立つというのがその理由です。大阪市立大学院食品機能化学の小西洋太郎教授によると、「キヌアは、精白米に比べ、たんぱく質や脂質が多い上、マグネシウムは10倍、亜鉛は3倍などの微量元素が豊富だ」と語っておられます。
ミネラルが不足がちな現代人にとって、キヌアは理想の穀物で健康や美容に感心の高い高齢者から若い女性層まで人気の雑穀で、ローソンなどのコンビニでもキヌアを加えたスープやサラダが売られています。レシピ紹介サイト「クックパッド」でも、キヌアレシピも増え、検索頻度も上昇中だそうです。
モテキ雑穀・キヌアの存在がクローズアップされ、雑穀がますます健康食に欠かせない事がわかってきましたね。
あわとねこじゃらしの関係
あわの原産地は中央〜東部アジアとされ、すでに石器時代には栽培されており、シベリア、オーストリアを経てヨーロッパへ渡ったようで、古い遺跡からはあわが出土しています。
日本には朝鮮を経て渡来。縄文時代にはすでに栽培され、きび、ひえと並んで我が国最古の作物。稲の伝来以前の主食であったと見られています。
この、あわの野生種はエノコグサ。通称ねこじゃらしですから、意外と身近な雑穀ですね。
古事記では、五穀として稲、あわ、小豆、麦、大豆が記され、日本書紀には四神出生の段で稲を除いた4つの総称を“陸田種子(はたつもの)”とし、雑穀の定義をしています。
江戸時代には本朝食鑑に、「うるちあわは大衆の常食で、もちあわは上流階級の食べ物」と記されています。明治の始めまで米よりもあわの栽培量の方が多かったそうです。あわの名は味が淡い事が由来とされています。
道ばたで頭を垂れるねこじゃらしがあわの野生種と思うと愛しくなります。
雑穀「きび」のふる里はどこだろう?
「きび」は最も古い穀物の一つですが、野生種が発見されておらず、原産地も諸説ありインド西北部から中央アジアや中国、エジプトやギリシャなどでも栽培されていたそうです。
また、紀元前8000年〜4000年の石器時代にはヨーロッパに伝来していたとも言われています。「きび」は古代中国では「黄米」といって最高級の主食だったそうです。日本には華北から朝鮮を経て伝わったとされていますが「古事記」や「日本書紀」にはきびについての記載がなく、「倭名類聚鈔(わみょうるいじゅうしょう)」(931〜936)の「和黍」の文字が最初です。米、麦、アワ、ヒエよりも遅れて伝来したと考えられています。「吉備の国」と呼ばれた現在の岡山県あたりは、その名が称するように古来はきびの産地だったようで、おとぎ話「桃太郎」に出てくるように“鬼の征伐についてくるならあげましょう、きび団子”というほどです。昔は兵糧食としても使われていたようです。くまさん自然農園でも農薬不使用できびを作っていますよ!
雑穀は「命の根源」食です
健康食品として注目を集める雑穀たちですが、昔は畑に実る五穀をどれも「イネ」と呼んでいました。古代語で 「イ」は“いのち”の 「イ」、「ネ」は“根っこ”の「ネ」で、二つの言葉をつなげて「イネ」と呼び「命の根源」を意味していたのです。
くまさん自然農園の伝統的な雑穀たちは農薬を使わなくても育ち、豊富なビタミンB群やミネラル、食物繊維に恵まれ私たちに必要な必須栄養素を満たしてくれます。雑穀たちには動脈硬化を予防、軽減する働きや肝臓障害を和らげたり、アレルギー代替穀物としても注目を集めています。冷害にも強く、大地の恵みを受けて小さな粒が作り出す食物栄養素の力が病気を遠ざけてくれます。
豊食の時代に合あって、古代人が健康を維持してきた雑穀たちが生活習慣病に悩む現代人の救世主として、また新しいグルメ食材として注目されることに喜びを感じます。雑穀は「命の根源」なのですね。
幻の雑穀「キヌア」
13〜16世紀まで続いた南米インカ帝国では、キヌアは「母なる穀物」として重要な食料でしたが、スペインの侵略によってインカ帝国が滅ぼされた時に、麦の敵性植物として栽培を禁止されました。以来、キヌアは“幻の雑穀”といわれていました。
ところが、宇宙食の研究開発を進めるアメリカ航空宇宙局(NASA)が、人間の体に必要なすべての栄養をバランス良く含む完璧な「21世紀の主食」として推奨してから、欧米では自然食、健康食として人気の雑穀になりました。
キヌアは、ほうれん草やとんぶりと同じアカザ科の植物で南米アンデス山地では紀元前三千年にはすでに栽培され、インカの人々は「キヌアを食べると丈夫で頭の良い子に育ち、病気やケガの回復も早く、長生きする穀物」と信じていたそうです。良質のたんぱく質、鉄分やカルシウムなどミネラル分も多く、食物繊維やビタミン、必須アミノ酸も含む驚異的な雑穀です。
世界にはさまざまな雑穀が存在しているのですね。
アンデスから来た“神の穀物”アマランサス
くまさん自然農園でも栄養豊富なアマランサスを栽培していますが、アマランサスは雑穀の仲間でもイネ科ではなくヒユ科ヒユ属で、観賞、野菜、穀実用として世界中に60種程あるそうです。
紀元前3000年〜5000年の昔、アンデス山岳地帯でアステカ族が栽培し、13世紀に興ったインカ帝国では“太陽の神への捧げ物”として重要な作物でしたが、16世紀のスペイン侵略によりアマランサスは“邪神の穀物”とされ栽培を禁止されてしまいます。19世紀に入ると“神の穀物”としてインドやネパールに伝わり、日本には江戸時代に東北地方に伝わったと言われています。ヒゲイトウ、アカアワ、仙人穀とも呼ばれ栄養価が高く、白米と比べてカルシウムは28倍、鉄分は50倍、食物繊維は8倍で全米科学アカデミーは食糧危機対策作物として紹介しています。欧米ではヘルシーシリアルとして人気で、穀物ブームの日本でも人気です。
遠いアンデス山脈から北上山地へ根付いたアマランサスにロマンを感じます。
美人をつくる雑穀
漢字で「米」と書くと語源的には穀物の粒のことで、アワ、キビ、ヒエもすべて「米」と呼んだそうです(角川新字源)。雑穀類には抗酸化物質が多く含まれ、細胞の酸化を防ぎ肝臓や腎臓をはじめ体内臓器官の若さが維持され若返りの働きがあることがわかっています。
さて、「化粧」という文字には「米」が使われていますが、「庄」は形づくるという意味で米がついて「粧」、“装う”となりますが、「米」(雑穀)を食べて体の内から健康で美しくなることから「化粧」という意味もあるそうです。
世界の三大美女、クレオパトラ、楊貴妃、そして平安時代の女流歌人・小野小町も大いに雑穀の恩恵に浴したに違いありません。「古今和歌集」に18首も歌が選ばれた才能の持ち主の小町は、かなりの食通だったそうですし、楊貴妃の不老不死の妙薬は雑穀だったかもしれません。アマランサスは「神の穀物」と呼ばれ、キヌアは「母なる穀物」と呼ばれるように、雑穀は世界が認める栄養バランスのとれた“美人食”ですね。
地名になった雑穀たち
「雑穀」という言葉がいつ頃から使われたかは定かではありませんが、雑穀ブームもあり“ヒエ・アワ・キビ”が雑穀としてすぐ浮かびます。
昔は、時代によってマメ類やムギ類、ソバやゴマまでが雑穀に含まれることもありました。
「雑穀」とは、主にイネ科の穀物の中でも小さな実を付ける作物の総称として使われていますが、英語でもミレット(millet)と呼ばれ、milleが数字の千を意味するとおり数千粒の実をつけることから、そう呼ばれたのです。
そんな雑穀たちの名前が地名になったと民俗学者柳田国男さんが説かれています。
「アワ」が多く生産されたので阿波の国(徳島県地方)、「ヒエ」が多く生産された閉伊の国(岩手県から青森県地方)、「キビ」が多かった吉備の国(岡山県・広島県地方)と呼ばれたのだという説です。
雑穀がその地を表す地名になるほど主要な食糧として大切にされていたことが分かるような気がします。