1980年代、アメリカでは「アマランサス」の栄養価に注目し「スーパーグレイン」の別名が与えられていました。
アマランサスの歴史は古く、紀元前5,000年頃のメキシコ・テワカン渓谷の遺跡から、アマランサスの炭化した大量の種子が見つかっています。
14世紀のアステカ帝国では年貢として皇帝に納めていたといわれ、古代アステカやインカ帝国(1200年頃~1533年)では重要な主食であり、神への供物でした。16世紀にスペインに征服されアマランサスが宗教行事と密接に結びついた作物として、キリスト教布教の障害になると考え「邪神の穀物」として栽培が禁止され、代わりに小麦が持ち込まれアマランサスの栽培が減ったといわれています。日本には、江戸時代にヒマラヤ山麓やインド南部から伝来したそうですが、東北地方で栽培され、仙人が食べる穀物として「仙人穀」と呼ばれていました。
3月中旬から4月にかけて降る雨を二十四節気で「穀雨」といいますが、この少し暖かい雨に田畑の作物が育ち、野山の木の芽が緑を増していく時節のことです。
「雨が降って百穀を潤す」の意から「穀雨」と呼ばれ、五穀豊穣をもたらす恵みの雨にちがいありません。
「穀風」という言葉は、万物を成長させる風のことで、東(こち)や谷風ともいわれています。また「穀日」とは、穀物のとれる恵みの日から“良い日・めでたい日”のことを指します。「穀旦」は元旦の旦で“よい朝の始まり”の意だそうです。
「雑穀」の穀は、からをかぶった“もみ”の意を表す字で、その意から広く穀物の意に用いられています。「穀」のつく文字に限りなく恵みを感じますが、この頃北秋田には桜前線で賑います。イギリスでは「3月の風と4月の雨が美しい5月を生む」という諺があります。雨もまた風情ですね。
人間が植物を栽培する農耕生活に入ったのは今からおよそ1万年前の新石器時代といわれています。しかし、農耕を始める以前の狩猟と採集に依存した時代から雑穀は食されていた痕跡が出土しています。古代人にとって雑穀は生命の主食でした。
1980年代、米国やカナダの医師たちが予防医学などの観点から注目した食品がスーパーフードという食材があり、2000年代に米国のセレブたちが美容や健康のために取り入れはじめ、日本でも広がりを見せています。アサイーやココナツ、スピルナ、チアシードなどにキヌアも加わり、NASAの宇宙食にも入る食材としてその栄養価とともに植物栄養素の効果が注目されています。キヌアを始めアマランサス、ひえ、あわ、きび、はと麦、マノーミン、黒米、赤米、むぎなど雑穀たちは人類の長い歴史のなかで、現代まで絶えることなく続くスーパーフードとして先祖帰りの食材が注目されています。
いま雑穀が世界的に注目を集めています。その理由は優れた植物栄養素の力で栄養学がその効能を実証しているからです。例えば、「キアヌ」は、鉄分が豊富で貧血の予防に良い。「アマランサス」は、カルシウムやビタミンB群などが豊富で骨粗しょう症対策に最適。「キビ」は、抗酸化力が高く体の老化防止。「ヒエ」は含有タンパク質が善玉コレステロール値をアップし、細胞を元気にして脂質代謝を改善。「黒米」は、ポリフェノールの一種、アントシアニンが豊富で抗酸化力が高く目の疲れを改善。「大麦」や「モロコシ」は、食物繊維が便秘を解消しコレステロール値を下げ、腸を整える。「ハトムギ」は、含有コイクセノライドが美肌効果を促進。「ソバ」は、ルチンが高血圧予防に効果あり。
と雑穀たちの豊富な植物栄養素の効能が注目されているのです。「21世紀は植物栄養素の時代」と言われていますが、雑穀こそ主穀として食生活の中心にしたい機能性食材ですね。現代の栄養学がそれを実証しています。
秋、真っ赤に色づく“コキア”が近年、人気の紅葉狩りとなっています。日本では“ほうき草”と呼ばれ、その実は“とんぶり”と呼ばれ畑のキャビアと称せられ、プチプチ感がキャビアそっくりです。“コキア”の原産地は中央アジアや西アジアで中国を経て古く日本に伝わり、秋田の名産ですが北秋田地方ではトンボのことを“ダンブリ”といい、トンボの目とほうき草の実が似ていることから、それがなまって“とんぶり”になったという語源説や中国の魚卵のブリコ、花茎のとうのブリコからと定説はないようです。
コキアは、秋に色づいて小さな葉が落ちたら昔は“箒” として使われ、その実はいまでも“とんぶり”として食されています。
栄養価は強壮、利尿に効果があるとされています。皮をむく作業は大変ですが旧比内町では精進料理や冠婚葬祭に欠かせない食材です。
雑穀の健康食としての広がりやスローフードの人気、今は紅葉の観光名勝となっています。
「マノーミン」という雑穀をご存知でしょうか。英語名では「ワイルドライス」、日本では「まこも」と呼ばれ、イネ科マコモ属の植物の実で稲の原種といわれています。
古くから北米に自生し、インディアンが常食してきたザイザニア、アクアティカとも呼ばれる水草の実で“聖なる種”といわれ偉大なる精霊からの魂「マノ」と種という意味の「ミン」から「マノー ミン」と呼ばれ、黒米を倍くらいに長くした細長い形をした実でナッツのような香ばしさとモッチリした食感が特徴の雑穀です。
サラダやスープなど野菜感覚で利用され、栄養価も高い機能性食材として注目されています。良質のタンパク質、ビタミン、ミネラルが豊富で脂肪分が少なく、食物繊維にも富み消化のよいのも特徴です。
古代人が食していた“パレオフード”の高機能性が解明され、健康社会づくりに役立つ食材として活用されることに期待です。
日本で古くから栽培されているオオムギの起源は、1万年前に突然変異した種が中東から伝わった栽培種であることがDNA配列からわかったそうです。
岡山大学や農業生物資源研究所などの国際研究チームが 米国の科学誌に発表しました。
中東の遺跡の調査から2万3千年以上前に、この地方で野生種の実が食べられていることがわかっています。オオムギの野生種は実が成熟すると地面に落ちやすいのですが、成熟しても実がついたままの突然変異種を見つけて栽培を始めたのだそうです。そのため、1万年前のオオムギの栽培が農業の起源と考えられています。
日本には7千~8千年かけてラクダの背に揺られながらシルクロードを経由して伝わったといわれています。雑穀のルーツを探りながら、人々の農耕の起源や暮らしの文化が見えてくることに悠久のロマンを感じます。
食品の機能性表示とともに「農作物」に対する期待も高まっています。
生活習慣病や認知症の予防に役立つ農作物の研究、開発に農林水産省が本腰を入れ始めているからです。
米やじゃがいも、みかんや緑茶などが研究の対象として選ばれ、それらの農作物に含まれる植物栄養素、βカロテンやβクリプトキサンチン、βグルカン、アントシアニンやカテキンなどのポリフェノール類、ビタミンB2、アミローズなど高機能栄養素の研究が進められています。でも最も注目されている農作物は雑穀の栄養素です。
キアヌやアマランサス、あわ、ひえ、きび、赤米、黒米、そばや押し麦などの多くに含まれるポリフェノールやカリウム、必須アミノ酸バランスなどの成分が高機能栄養素として世界的に注目されているのです。雑穀は健康自立に欠かせない食材となっています。
宇宙食に「五穀玄米ごはん」が加わりそうです。宇宙航空研究開発機構では、宇宙日本食に新たな108品目の候補から、33品目を選んだなかに「五穀玄米ごはん」が入っているそうです。その他にさつまいもや焼きいも、おろしりんごやちりめん山椒、ようかんなども含まれています。宇宙食は国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する日本人宇宙飛行士に、栄養バランスの向上やストレス軽減などを目的に提供する食事です。
これまでに赤飯やラーメン、粉末緑茶など28品目が認証されていますが、保存期間や食感、食べやすさ、水分やカスが飛び散らないかなどの試験がされ認証されるのです。
クッキングをしなくてもいい宇宙食ですが、飛行士の健康維持に「五穀玄米ごはん」が加わり、噛めば噛むほど味が出る五穀玄米が活躍と思うと楽しいですね。
他の国の宇宙飛行士にも“おすそわけ”するのでしょうか。
機能性表示食品が注目され、食事が健康の素と再認識される時代「雑穀」に含まれる豊富な植物栄養素の機能と効用が見直されています。雑穀に含まれる「ポリフェノール」は、植物を紫外線から身を守る働きをするように人間にも同じ役割を担ってくれるのです。ポリフェノールには5,000種類以上あるのですが、雑穀の色素や苦み、渋みなどに多く含まれ強い抗酸化力とともに紫外線に負けない身体を作ってくれます。また、体内で合成できない「必須アミノ酸」を雑穀から摂取できることです。リジンやパリン、ロイシン等の9種類の必須アミノ酸が免疫力を高めてくれます。
そしてもう一つは、カリウムやナトリウム、鉄分や亜鉛などの豊富な「ミネラル成分」が体調を整えてくれる働きがあることです。
「雑穀」を代表するこれらの3つの成分が一緒に摂れることが注目されています。雑穀の底力はまだまだ未知数で、その可能性は広がりそうです。