雑穀の優等生は“ハトムギ”

雑穀のなかでも大粒の「ハトムギ」は、イネ科ジュズダマ属ですが、唐麦、朝鮮麦、ヨクイや収量の多さから四石麦などとも呼ばれています。祖先は、ジュズダマで殻の固い実を利用して数珠にすることからこの名前が付いたともいわれています。

植物栄養学の進んだ近年、ハトムギの豊富なビタミンB2やアミノ酸バランスの良いところから“体の中の水分や血液の代謝を促す”作用が注目され、胃腸を整え、腎臓の働きを高め、シミ、ソバカス等の肌荒れの改善にも良いことがわかり、女性に人気の雑穀です。

ハトムギの栽培はヒマラヤ地方が最も古く、インドや東南アジア、中国南部を経て日本には江戸中期に伝わったと言われています。古くは奈良時代に鑑真和上が伝えたという説や、1500年代に加藤清正が朝鮮半島から「朝鮮麦」として持ち帰ったとか諸説あります。「ハトムギ」と呼ばれたのは明治時代で“鳩が好んで食べる”とか、これまた諸説あります。

アマランサスは、神か邪神の穀物か。

1980年代、アメリカでは「アマランサス」の栄養価に注目し「スーパーグレイン」の別名が与えられていました。

アマランサスの歴史は古く、紀元前5,000年頃のメキシコ・テワカン渓谷の遺跡から、アマランサスの炭化した大量の種子が見つかっています。

14世紀のアステカ帝国では年貢として皇帝に納めていたといわれ、古代アステカやインカ帝国(1200年頃~1533年)では重要な主食であり、神への供物でした。16世紀にスペインに征服されアマランサスが宗教行事と密接に結びついた作物として、キリスト教布教の障害になると考え「邪神の穀物」として栽培が禁止され、代わりに小麦が持ち込まれアマランサスの栽培が減ったといわれています。日本には、江戸時代にヒマラヤ山麓やインド南部から伝来したそうですが、東北地方で栽培され、仙人が食べる穀物として「仙人穀」と呼ばれていました。

秋田の「G・Bビジネス」

秋田県の「元気村G・Bビジネス」が話題です。Gは、じっちゃん、Bは、ばっちゃんの頭文字で、山で摘んだ山菜やキノコを産直販売や加工販売する事業です。2010年から始まり、年々出荷額が伸びています。
G・Bビジネスの先駆者は、高知県上勝町の“葉っぱビジネス”が有名ですが、刺身のつまものや料理のいろどりを出荷し老人ホームのいらないまちとして地方再生のモデルとなっています。秋田のG・Bビジネスは4誌1町1村の地域でつくる「元気ムラ集落ネットワーク」で取り組み、臨時直売所を設けたり首都圏のスーパーに出荷したり、加工品を作り販路を広げています。関東のスーパーでは天然の旬の山菜は珍しく、自然の香りも高く質も良く新鮮で天ぷらに適した春の山菜はシニア層などにも人気です。
自然に囲まれた「くまさん自然農園」も、山菜やキノコの宝庫です。どうか、お出かけください。

比内地鶏のブランド化

96年、人気グルメ漫画「美味しんぼ」が“恋のキリタンポ”と題して連続で比内地鶏を取り上げた頃から全国にその名が広がり始めました。といっても比内地鶏は鍋料理のだしや具材で、いってみれば“脇役” でした。

その頃、東京では薩摩鶏や名古屋コーチンなどの鶏がブランド化され高級焼き鳥として売られておりましたが、最少種の比内地鶏も焼き鳥の仲間入りをし今の全国的な人気ブランドの鶏となったのです。
勿論、比内地方原産のシャモ系地鶏は昭和17年に国の天然記念物に指定されていますので、秋田県畜産試験所の努力によって一代交雑種「比内地鶏」を生み出し、キジや山鳥に似た脂がきめ細かいかみしめるほどうまみと風味と香気がでる美味しい比内地鶏として、キリタンポの具材から一躍高級焼き鳥として人気のブランドとなったのです。

放し飼いでついばむ比内地方の土質や秋田の風土が生み出す味なのです。

「穀雨」の恵み

3月中旬から4月にかけて降る雨を二十四節気で「穀雨」といいますが、この少し暖かい雨に田畑の作物が育ち、野山の木の芽が緑を増していく時節のことです。
「雨が降って百穀を潤す」の意から「穀雨」と呼ばれ、五穀豊穣をもたらす恵みの雨にちがいありません。
「穀風」という言葉は、万物を成長させる風のことで、東(こち)や谷風ともいわれています。また「穀日」とは、穀物のとれる恵みの日から“良い日・めでたい日”のことを指します。「穀旦」は元旦の旦で“よい朝の始まり”の意だそうです。
「雑穀」の穀は、からをかぶった“もみ”の意を表す字で、その意から広く穀物の意に用いられています。「穀」のつく文字に限りなく恵みを感じますが、この頃北秋田には桜前線で賑います。イギリスでは「3月の風と4月の雨が美しい5月を生む」という諺があります。雨もまた風情ですね。

雑穀は古代からのスーパーフード

人間が植物を栽培する農耕生活に入ったのは今からおよそ1万年前の新石器時代といわれています。しかし、農耕を始める以前の狩猟と採集に依存した時代から雑穀は食されていた痕跡が出土しています。古代人にとって雑穀は生命の主食でした。
1980年代、米国やカナダの医師たちが予防医学などの観点から注目した食品がスーパーフードという食材があり、2000年代に米国のセレブたちが美容や健康のために取り入れはじめ、日本でも広がりを見せています。アサイーやココナツ、スピルナ、チアシードなどにキヌアも加わり、NASAの宇宙食にも入る食材としてその栄養価とともに植物栄養素の効果が注目されています。キヌアを始めアマランサス、ひえ、あわ、きび、はと麦、マノーミン、黒米、赤米、むぎなど雑穀たちは人類の長い歴史のなかで、現代まで絶えることなく続くスーパーフードとして先祖帰りの食材が注目されています。

山の民マタギと北秋田

「くまさん自然農園」のある北秋田市の森吉山麓にマタギの里と呼ばれる阿仁町があります。マタギとは伝統的な猟法を守って狩猟をする山の民ですが、山への敬愛と熊を山の神からのたまものとする考え、山の神への感謝、魂を山に送り返そうとする行為や精神にささえられ、その生き方はマンガ家、白戸三平さんのライフワーク「カムイ伝」にも描かれています。
マタギは熊以外の鳥獣や薬草にも知識が深く、自然と共生して暮らしていました。マタギの語源説はいくつもありますが、アイヌ語で狩猟者をマタンギトノというのでこれが転じたという説やインド語でも狩猟者をマータンギといい、マタギが唱える不思議な呪文もサンスクリット語(古代インド語)だそうです。
遠い昔、古代インドの民とアイヌはつながっていたのでしょうか。その子孫たちがマタギとしてこの「くまさん自然農園」の地で活躍していたと思うとロマンを感じます。

「雑穀」から健康「主穀」へ

いま雑穀が世界的に注目を集めています。その理由は優れた植物栄養素の力で栄養学がその効能を実証しているからです。例えば、「キアヌ」は、鉄分が豊富で貧血の予防に良い。「アマランサス」は、カルシウムやビタミンB群などが豊富で骨粗しょう症対策に最適。「キビ」は、抗酸化力が高く体の老化防止。「ヒエ」は含有タンパク質が善玉コレステロール値をアップし、細胞を元気にして脂質代謝を改善。「黒米」は、ポリフェノールの一種、アントシアニンが豊富で抗酸化力が高く目の疲れを改善。「大麦」や「モロコシ」は、食物繊維が便秘を解消しコレステロール値を下げ、腸を整える。「ハトムギ」は、含有コイクセノライドが美肌効果を促進。「ソバ」は、ルチンが高血圧予防に効果あり。
と雑穀たちの豊富な植物栄養素の効能が注目されているのです。「21世紀は植物栄養素の時代」と言われていますが、雑穀こそ主穀として食生活の中心にしたい機能性食材ですね。現代の栄養学がそれを実証しています。

三度、楽しむ「コキア・ほうき草・とんぶり」

秋、真っ赤に色づく“コキア”が近年、人気の紅葉狩りとなっています。日本では“ほうき草”と呼ばれ、その実は“とんぶり”と呼ばれ畑のキャビアと称せられ、プチプチ感がキャビアそっくりです。“コキア”の原産地は中央アジアや西アジアで中国を経て古く日本に伝わり、秋田の名産ですが北秋田地方ではトンボのことを“ダンブリ”といい、トンボの目とほうき草の実が似ていることから、それがなまって“とんぶり”になったという語源説や中国の魚卵のブリコ、花茎のとうのブリコからと定説はないようです。
コキアは、秋に色づいて小さな葉が落ちたら昔は“箒” として使われ、その実はいまでも“とんぶり”として食されています。
栄養価は強壮、利尿に効果があるとされています。皮をむく作業は大変ですが旧比内町では精進料理や冠婚葬祭に欠かせない食材です。
雑穀の健康食としての広がりやスローフードの人気、今は紅葉の観光名勝となっています。

聖なる種「マノーミン」に注目

「マノーミン」という雑穀をご存知でしょうか。英語名では「ワイルドライス」、日本では「まこも」と呼ばれ、イネ科マコモ属の植物の実で稲の原種といわれています。
古くから北米に自生し、インディアンが常食してきたザイザニア、アクアティカとも呼ばれる水草の実で“聖なる種”といわれ偉大なる精霊からの魂「マノ」と種という意味の「ミン」から「マノー ミン」と呼ばれ、黒米を倍くらいに長くした細長い形をした実でナッツのような香ばしさとモッチリした食感が特徴の雑穀です。
サラダやスープなど野菜感覚で利用され、栄養価も高い機能性食材として注目されています。良質のタンパク質、ビタミン、ミネラルが豊富で脂肪分が少なく、食物繊維にも富み消化のよいのも特徴です。
古代人が食していた“パレオフード”の高機能性が解明され、健康社会づくりに役立つ食材として活用されることに期待です。